808号室の壁面照明作品の素材は、京都の織物を代表する西陣織の紋紙（もんがみ）です。 紋紙とはジャカード織機で使用されるパンチカードのことです。穴の位置によって織機が制御され、複雑な図柄が織られていきますが、通常は一本の帯に数千枚の紋紙が使用されています。より精度高く精緻な図柄の場合には数万枚ということも珍しくはありません。 一つの織物が出来上がるまでには気の遠くなるような沢山の行程があり、そのすべてにはそれぞれ熟練の職人技が必要です。しかし、あらゆる分野でデジタル化が進行した現在では、紋紙を使用した織機はきわめて希少なものとなってしまいました。 縁あってこの型紙に出会いました。手にかざすと、リズミカルに秩序を保ちつつも、微妙に変化する穴から漏れる明かりがとても心地よく感じました。紋紙自体はやさしい影となって明かりに寄り添い、空間をより奥行き深くひろげてくれる。西陣で育まれた手わざのこころに触れるにつけ思いは募り、このような灯りの設えに発展しました。 この地の風土と歴史が堆積した素材が、旅の宵に、やすらぎの間(ま)を提供できますならば、たいへん嬉しく存じます。